今が未来

10代の頃から西荻窪という街に憧れていた。

当時から愛してやまない漫画家・やまだないとの作品は、彼女自身が住む西荻窪を舞台にしたものが多く、その影響で。

なんだか大阪の中崎町的な? 東京らしからぬのんびり下町感。いつか行ってみたい町No.1だった。

やがて仕事で東京への出張の機会が増えて、その度に西荻窪までわざわざ足を伸ばした。何をするでもなくただぶらぶらと町を散歩する。歩いているだけで、その漫画の世界に入り込んだみたいで、嬉しかった。

お気に入りの雑貨店に行った後、どんぐり舎で珈琲を飲んで、当時は煙草も吸っていたので一服して帰る、というのが毎回のコースだった。このどんぐり舎もやまだないとの漫画によく登場した。

煙草のヤニで茶色くなった店内に、新聞を広げたセピア色の常連客たち。僕は西荻の住人になりすまして静かに読書。好きだなぁ。すきだなぁ。こんな喫茶店が似合うこの街が。

上京後も何度か訪れたが、湘南に引っ越してからは禁煙した事もあって自然と足が遠のいていった。

先日、久々にどんぐり舎へ。

何も変わっていない。たぶん。もう10年も来ていなかったから細かく覚えてないけど。

好きだった窓際の席に座って、珈琲ではなくロイヤルミルクティを注文する。

今日は恒例のくしまでのディナー。今日はインド帰りの磯部っちと食事。約束の時間まで、連載用の原稿を書いたり、本を読んだりして過ごす。

不思議だな。西荻窪に惹かれた10代、今はその街で店を営むパートナーができて月一で通い、どんぐり舎で原稿を書いている。なんという事だ。

いつも思う。今が未来なんだ、と。過去と今と未来は同時にあって、今見ている世界は未来でもあるんだ。未来だから、惹かれているんだ。

そうやって今を体験すると、未来は希望に溢れている。

僕はもう煙草も完全にやめたし、珈琲も飲めなくなったけど、また訪れたいと思う。

ちなみに、やまだないとは今でも大好き。老舗の喫茶店も。

過去も今も未来も、変わっているようで変わらないものなんだね。人ってそんなもの。