2019,9,17 BIG ISLAND

ハワイ島の鶏の鳴き方は、なんか変だ。たしかに「コケコッコー」と鳴いてはいるが、日本の「コケコッコー」とは何かが違う。文字にしてみると「ウォェオッオー」の方が近い気がする。もしかしたら鶏の世界にも英語や日本語があるのかもしれない。

鶏達の英語の鳴き声と、プナのジャングルの住人だというコキフロッグ(コキガエル)の不思議な鳴き声の大合唱で目が覚めた。窓の外を見ると、日の出前の空が青紫色に染まっていてとてもきれいだ。トイレに行くため部屋を出ると、びっくりするような景色が広がっている。青紫色の空と、どこまでも広がるジャングル。なんで僕はこんなところにいるんだろう、と不思議な気持ちになる。これは現実? 夢?

ここはハワイ島・プナ地区のジャングルにひっそりとある、ケイコ・フォレストさんの場、 “The village” 。たくさんの奇跡が折り重なって生まれた場所。昨日夕方に到着して、そのあまりの「ジャングルさ」とあまりの素敵さに、開いた口が塞がらず顎が外れてそのままシャクレてしまうほどの衝撃を受けた。言葉にできない事って本当にあるんだね。”The village” の敷地内には、”NEST” と名付けられた母屋とケイコさんの自宅、さらにその奥に今は使われていないかつて来客用だった小屋があり、それ以外は巨大なジャングルが広がっている。そのジャングルは “Edible jungle(食べられるジャングル)” と呼ばれ、果樹や野菜がたくさん育つ。全部合わせたら7,000坪ほどの土地なんだそう。もうわけわからん数字。

僕達が泊めさせてもらったのは、母屋 “NEST” の二階のお部屋。ケイコさん曰く「アルマーニを呼べるくらいカッコよく」設えられたお部屋。超快適。電気も水道も通っていないと聞いていたのである程度は覚悟して来たが、電気はソーラーパネル、水は溜めた雨水で十分まかなえているようで、驚くほど快適だった。特に驚いたのは、トイレ。都会と何も変わらない。シャワーもお風呂も広くて清潔で、気にせず全然使っていいよ~、とのこと。これならジャングルにある事以外は、都会の暮らしとさして変わらない。いや、変わるか。ここはジャングルのど真ん中だもんな。まぁとにかく、全ての価値観や観念がたった一夜でひっくり返りました。

昨夜はケイコさんお手製のサラダや近くのマーケットで買ったというデリを夕飯にご馳走になり(白目剥く美味しさでした)、そのままケイコさんとのディープトークを初っ端から体験したのち、部屋に戻って気絶するように就寝。朝になって目覚めてからも、置かれた環境の非現実感からか未だ夢の中にいるような変な感覚が続いていた。この場で息をしているだけでネクストステージに行ってしまいそう。マジアセンション。フワフワしたまま一階に降りて、天井が高く広々としたスタジオでヨガと瞑想をさっとした後は、キッチンをお借りして久嶋くんと僕で朝ごはんの準備をする。今日は近くに住むケイコさんのお友達も一緒に朝食を囲むそう。キッチンも広くて使い勝手が良い。大きなジューサーがあったので、僕はシンジさんのお家で採れた手土産のパパイヤと、”The village” のバナナでスムージーを。久嶋くんはフルーツサラダを。ケイコさんのお友達・ミカさんも到着されたので、テーブルに運んで、いただきます。ケイコさんもミカさんも、美味しい! と、絶賛して喜んでくれた。良かったねおけんちゃま!

ケイコさんもミカさんも以前はバークレーに住んでいた。僕とおけんちゃまは毎年バークレー通い。ハワイ島にいながら4人でバークレーの話しをする不思議。あそこのお店は閉店しちゃいましたよ~、とか、あの人知ってる~? とか。この近所には偶然か必然か、バークレーから移り住んできた人が多いらしい。やはりこの2つの土地には共通する何かがあるのかもしれない。ハワイ島に降り立った時、バークレーを初めて訪れた時と似た感覚があったもんな。

ベイエリア(サンフランシスコ~バークレー)に20年ほど住んでいたというミカさんは、3年前から腸洗浄のセラピストとして活躍されているそう。自宅近くにサロンを持っている。ベイエリアではインテリアスタイリストの仕事をしていたそう。すごい転身。ケイコさんが「せっかくだから今日2人で腸洗浄受けたらぁ?」と勧めてくれる。  …やだ、怖い。腸洗う、って、何? なんでハワイに来て腸洗うの? 僕は「腸洗浄」という強烈なワードに完全に腰が引けていたが、久嶋君はもともと自分でコーヒーエネマ(コーヒーで腸を洗浄する)を実践していたからあまり抵抗感が無さそうな様子。「わ~、いいですね~やりたいですぅ」とか言っている。いやいやあたしはお暇します、と遠慮したかったのに、なぜだか腸洗浄してもらう流れになる。じゃぁ今夜サロンに来てね、とミカさん。…やだほんとにやるの? 怖い… ただただ怖い。ほんとにやるのね? ほんとに? 腸洗うのねあたし? マジなのね? ほんとに? Big islandは、全てが完璧に、スピーディに進んでいく奇跡の島。腸洗浄へのスピーディな導き。

朝食を食べた後、ミカさんとは腸洗浄まで一旦お別れ(本当にやるんだね…)。僕たちは ”The village” の隣の敷地に住むケイコさんの元パートナー・リッチーに会いに行く事に。ジャングルを車でさらに奥に進んでいくとリッチーの家に到着する。ケイコさんの敷地よりもさらにワイルド。鬱蒼としたジャングルを進むと、リッチーが畑仕事に精を出していた。全裸で。

「あぁ、彼、いつも全裸だから気にしないでね~」

と、ケイコさん。難しいが、努力します。でも、リッチー本人が本当に自然体で、見慣れてくるとジャングルの中では裸の方が自然なんじゃないか? みたいに思えてくる。全裸で収穫したフルーツをその場で皮を剥いてかじりつく様子は完全に古代人。でも、iPhone片手に作業したり音楽を聴いたりしていて。実はこれってかなり未来的な姿なのではないだろうか、ネオ縄文的な。ジャングルの中、全裸の人を見て未来に想いを馳せる。

リッチーがサトウキビを収穫してくれたので、サトウキビ搾り機なるものでジュースを作る。リッチーに搾り機の使い方を教えてもらって、僕と久嶋君と交代で、長いサトウキビをグリグリとレバーで押しつぶしながらジュースを搾っていく。結構な力仕事。出来上がった搾りたてのサトウキビジュースは、色は濁っているが飲んでみると喉越しスッキリ。さわやかな甘さでめちゃくちゃ美味しい。鉄分補給にとても良いそう。2,3本のサトウキビからすごい量のジュースが採れて、お腹がちゃぽちゃぽになるくらい飲むことができた。いろんな意味でお腹いっぱい。たった数十分の間に、自分の中の価値観が大きく揺さぶられた気がする。

リッチーと別れて、ケイコさんのお友達で、僕たちの憧れの人、ヤナに会いに行く。この流れで、ヤナ。濃度が濃い。

ヤナの家はプナのジャングルをさらにさらに奥に進んでいく。ヤナの家が近づいてくると、道もさらにゴツゴツして進みにくくなっていく。ケイコさんでも大変そう。車を降りて鬱蒼とした茂みを抜けていくと、まるであの精巧に作られたディズ○ーランドのアトラクションのような、おとぎ話の実写化のような、めちゃんこかわいいお家が待っていた。あまりのかわいさに、久嶋君と2人、しばし呆然とする。本当にここに人が住んでるんだ…。ヤナは不在のようで、とりあえずリビングらしき広場に設置されたブランコチェアに座ってヤナの帰りを待つ。ブランコに揺られながら、お家全体を眺めてみる。壁はない。屋根もタープが張られているだけ。ほぼテント暮らしのようなものなのに、なんとかわいく、なんと豊かだろう。僕の心がキラキラと音を立ててときめいている。

ヤナが戻ってきた。わぁ、本物だ…。感動して泣きそうになるのをグッと堪える。ヤナはクルクルと表情を変えながらケイコさんと冗談を言い合っていて、その様子を見ているだけで心がなごむ。ユーモアがあって、チャーミングな女性なんだなぁ、ヤナは。ケイコさんが転んで肋骨を折ったと話したら、すごく心配をして薬草での治療法も伝授していた。そのやりとりに、お二人の著書『ヤナの森の生活』を思い出す。本当にそのままだ。僕は日本から持ってきた『ヤナの森の生活』を差し出して、サインをしてもらう。ヤナがサラサラと絵を描いて、僕と久嶋君の名前を添えてくれた。感動と感激のサンドイッチ。最後はぎゅっとハグをしてお別れした。夢心地でヤナの家を後にする。この旅で1番テンションが上がった。夢の中にいるような時間だったなぁ。

昨日から自分の中にある「私」という枠がガンガンとひっぺがされて、「私」の書き換えが行われているような感覚。熱出そう。何も考えられない。でもその「何も考えられない」感じ、「『今ここ』しかない」感じが、とても心地いい。あぁ、これ。これなんだよなぁ、と思う。でも、まだ「これ」を言葉にすることはできない。この旅を終える明日までに、言葉にすることはできるのだろうか?

“The village” に戻ると、腸洗浄を受けるまでまだ少し時間がある(本当に受けるのね…)。じゃぁ早めに晩ご飯食べちゃって、腸洗浄に備えようか、という事に。ケイコさんには部屋で休んでもらって、キッチンをお借りして久嶋君と僕で晩ご飯の準備。泊めさせてもらったお礼も兼ねて、ステキな食卓にしよう! と、久嶋君はなんと野菜の巻き寿司を作るという。せっかくだからご馳走らしいものが良いよね、と。僕はそれに合わせてサラダと炒めもの。ご飯を炊いて寿司飯を作り、キッチンで見つけた海苔に乗っけて巻いていく。巻き簾が無いので、ビニールのジップロックで器用に巻いていて、その様子が面白い。ハワイアンロール(何をもってハワイアンなのかはわからないが、ハワイの食材を使って作るトロピカルな巻き寿司ということで)には3種類の付けダレも添えられた。汁物はキノコのお出汁で作ったスープ。サラダは葉野菜とハーブをたっぷりと。外から南国らしい大きな葉っぱを何枚かいただいてきて、お皿に敷いて盛り付けていく。せっかくだから敷地内にたくさん咲いているハイビスカスのお花も添えて。こんなトロピカルな盛り付け、ここでしかできないもの。

それにしても、このキッチンでの料理は「料理とは瞑想である」という事を本当の意味で体験できる。ものすごく静か。静か、というのは、音だけじゃない。エネルギーも含めての完全なる静寂だ。電磁波もない。人の念も飛んでいない。邪気も邪念ももちろん存在しない。存在できない。こんな環境で料理をするなんて、いや料理だけじゃなく、こうして身を置くことができるなんて、現代に生きていてそう体験できることじゃない。自然の中にある鎌倉山の我が家でも、エネルギーを含めてここまで完全な静寂はないもの。これって、ものすごく贅沢なことだ。贅沢で、正しいことだ。こんな経験をしてしまって、日本に戻ってから普通に生活できるのだろうか。

良いヴァィヴレーションの中で完成した料理達をテーブルに並べて、ケイコさんを呼びに行く。ケイコさん、並んだ料理を見てとっても喜んでくれた。僕たちをたくさん気遣ってくれて、たくさんもてなしてくれたささやかなお礼です。3人で静かにディナー。3人だけでいただくのがもったいないくらい、豪華な食事。

ここには本当に大切なのものだけがある。ここでは本当に必要な感覚や感情の連続だけで生きることができる。そうして見えてきたものをしっかり掴んで、それだけを掴んで、明日日本に帰ろう。

コキフロッグが鳴き始めた。陽暮れの時間だ。腸洗浄の時間が刻一刻と迫っている。お願いだからこの幸せな時間がいつまでも続いてほしい。お願いだから(白目)。